デンプンの蓄積によるgi(葉肉CO2コンダクタンス)の低下


植物を長期間高CO2条件で栽培すると、その葉にデンプンが蓄積します。デンプンは浸透圧に影響を与えないため、植物は多量の炭水化物をデンプンの形で蓄えることができます(たとえば、僕の使っていたインゲンでは、葉の乾重量の50%がデンプンである場合もありました)。一方でデンプンの蓄積自体が光合成速度に影響を与える、という報告もあります。


Nakano et al. (2000)は、インゲンのさやを取り除き、葉の炭水化物量と光合成速度の関係を調べています。さやを取り除く処理によって、インゲンの葉には炭水化物が蓄積し、光合成速度が減少します。しかし、この葉の気孔コンダクタンス(気孔をCO2が移動するときの抵抗の逆数)やRubisco含量には変化は見られませんでした。このインゲンを暗所に2日間置くと、葉のデンプン含量は減少し、その光合成速度は普通に栽培した個体の葉の光合成速度と同程度まで回復しました。Sawada et al. (2001)でも同様の結果が報告されています。これらの結果は、光合成に関わるコンポーネント(Rubiscoなど)の減少ではなく、デンプンの蓄積自体が原因となって光合成速度が減少している可能性を示唆しています。


では、デンプンが蓄積すると葉では一体何が起こるのでしょうか?デンプンの蓄積は葉緑体の形を大きく変形させます(Cave et al. 1981)。葉緑体の変形は、それ自体が光合成システムに影響をあたえるわけではありませんが、葉緑体の細胞膜からの平均距離を長くします(図1)。葉緑体の細胞膜からの平均距離が伸びると、CO2が細胞間隙から細胞壁→細胞膜→Rubiscoの活性部位と移動するための距離が大きくなり、結果としてCO2透過の抵抗が大きくなる可能性があります(液相のCO2抵抗は、気相の10000倍ぐらいなので、液相の距離が増えると抵抗は非常に大きくなる)。したがって、デンプンの蓄積が葉内のCO2コンダクタンス(抵抗の逆数)を低下させているのではないか、と考えられていました。

図1: 葉緑体内のデンプンと葉緑体の細胞膜からの平均距離の関係

デンプンが蓄積すると葉緑体が変形し、細胞膜からの平均距離が長くなる。その結果、葉肉コンダクタンス(gi)は低下する(かもしれない)。

 

葉肉コンダクタンス(gi)とは?

葉肉コンダクタンスに関しては、こちらや、こちらで詳しく説明されているので、ここでは簡単な説明のみにとどめます。

 

giは13C/12Cの同位体比から計算で求めることができます(光合成と蛍光の同時測定でも推定は出来ますが、正確に測定するのは困難です)。今まで測定された木本、草本のgiは0.05-0.5 mmol m-2 s-1程度で、光合成の主な制限要因の一つであると考えられています(Hanba et al. 1999, Evans et al. 1986)。

 

Nafziger and Koller (1976)では、高CO2(1000ppm)、大気CO2(300ppm)、低CO2(50ppm)で栽培したダイズ(Glycine max L.)のgiを、Gaastra (1959)の方法を用いて測定しました。この結果、高CO2で栽培したダイズでは、葉緑体にデンプンが蓄積し、giが減少していました。この結果は、デンプンの蓄積がgiに影響を与えていることを示唆しています。しかし、giとデンプン蓄積量の関係を近代的な方法で同時に測定した研究はありません。